【名局鑑賞】藤井聡太の▲4四桂!第11回朝日杯将棋オープン戦決勝

今回は、2018年2月17日に行われた第11回朝日杯将棋オープン戦決勝の将棋を鑑賞したいと思います。
棋譜掲載を許可していただきました主催者様に感謝申し上げます。

主催:朝日新聞社、日本将棋連盟
対局場所:東京・有楽町朝日ホール

先手:藤井聡太 五段
後手:広瀬章人 八段

(段位はいずれも当時)

初手から以下
▲2六歩 △8四歩▲7六歩 △8五歩
▲7七角 △3四歩▲7八銀 △3二金
▲4八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲4六歩 △6二銀▲4七銀 △4二玉
▲3六歩 △7四歩▲7八金 △3三銀
▲5六銀 △6四歩▲3七桂 △7三桂
▲6八玉 △6三銀▲4八金 △8一飛
▲2九飛 △6二金▲6六歩 △5四銀
▲9六歩 △9四歩▲1六歩 △1四歩(第1図)


ともに朝日杯初優勝がかかる本局。
藤井五段としては、勝てば史上初となる中学生棋戦優勝と六段昇段にもなる一戦でした。

同日に準決勝が行われ、藤井五段は羽生善治竜王、広瀬八段は久保利明王将とどちらもタイトルホルダーに勝ち決勝戦に進出しています。

戦型は当時からよく指されていた▲4八金・▲2九飛型(△6二金・△8一飛型)の角換わり相腰掛銀に。
藤井五段は当時先手番ですと角換わりを採用されることが多かったです。

第1図以下
▲7九玉 △4四歩 ▲4五歩 △5二玉(第2図)

△4四歩では△3一玉や△6五歩、単に△5二玉も考えられ、手の広いところ。

本譜△4四歩~△5二玉が新工夫で、「やってみたかった指し方」と広瀬八段は語られています。

第2図以下
▲2五桂 △2四銀▲4四歩 △4一飛
▲7五歩 △同 歩▲7四歩 △4四飛
▲4七銀 △4一飛(第3図)


△7五同歩で単に△4四飛は、
▲4五歩△同銀▲5五銀
と反撃することができます。
本譜は▲7四歩と打たせてから△4四飛と走ることにより、▲4五歩の筋を消しています。

▲4七銀では代えて▲5八金とし、次に▲6九飛をみるのも有力でした。

△4一飛は駒のあたりを緩和した手。
香車にヒモをつけて▲7三歩成~▲8二角に備えた手でもあります。

第3図以下
▲6七角 △6三玉 ▲7三歩成 △同 金
▲1五歩 △同 歩 ▲8五角  △7四金
▲同 角 △同 玉(第4図)


▲6七角は「歩切れで、手が作れないと悪くなりそう。歩を取って攻めをつなげる考えでした」と藤井五段。
広瀬八段は「見えにくい。いい手でした」と語られています。

▲1五歩と1筋を突き捨てたのは、将来歩が必要となった際に▲1五香と補充できるようにしたもの。
ただし、単に▲8五角も十分有力でした。

▲7四同角と切り飛ばし、先手の攻めがつながるかどうかの展開になりました。

第4図以下
▲5二金 △4三飛▲4四歩 △同 飛
▲5六桂 △4五飛▲5三金 △8一角
▲5四金 △同 角▲5三銀(第5図)


▲5二金では▲6九飛が優るとAIは示しますが、本譜も有力な攻め筋。

△4三飛で△8一飛には
▲5三金△6三銀▲5六銀
と力をためるのが藤井五段の予定。
「銀を使えれば悪くないと思いました」と語られています。

▲5六桂に代えて単に▲5三金は、△4三金を警戒したとのこと。
以下
▲5六桂△4七飛成▲同金△5三金
が予想される展開となります。

△4五飛で△4三飛は、▲1五香が次に▲4四歩をみてぴったり。
これは1筋を突き捨てていた手が生きる展開となります。

▲5三銀は▲6四銀成と▲4四銀成の両狙い。
後手の受けかたによって、この後の進行が大きく変わります。

第5図以下
△8一角▲6四銀成△8三玉▲7四歩
△6二金▲4九飛 △4一飛▲8六銀
△5五歩▲7七桂 △5六歩▲6五桂
△6一桂(第6図)


第5図では△5五角が控室では予想されていたようですが、
▲6四銀成△同角▲同桂△同玉
とバラし、▲8二角や▲6五歩と攻めていけば先手が指せます。

△8三玉では△8四玉と逃げて▲7四歩には△6三歩を用意するのも考えられますが、▲7三成銀としておけばすぐに決め球はなくとも後手玉は危険な格好になるため後手は指す手が悩ましくなっていました。

▲4九飛は独特な間合いで、次に▲5八金~▲4六銀と形をほぐす狙いだったと思われます。

△4一飛はあたりを避けつつ次の△5五歩を用意した手。
単に△5五歩では、▲7三歩成~▲4四金と飛車が詰ます筋が生じます。

▲8六銀~▲6五桂と自陣の駒を前線へ送り出し、攻め駒を増やしていきます。

第6図以下
▲5六銀 △3七角▲7三歩成 △同 桂
▲同成銀 △同 金▲同桂成  △同 玉(第7図)


▲5六銀は「▲4九飛と回った手の顔を立てましたが、微妙だったかもしれません」と藤井五段。
単純に攻めていくなら▲8五銀が有力でした。

△7三同玉で△同角成は
▲7四歩△同馬▲6五銀
で攻めが続く格好。

本譜は△4八角成と攻める手を残しましたが、ここで先手に絶好の一手がありました。

第7図以下
▲4四桂(第8図)

▲4四桂が広瀬八段が気づかなかった妙手。
仕組みは単純で、△4四同飛には▲4五歩として飛車角両取りが残るというわけです。

こうして指されてみればなるほどの一着なのですが、桂馬をタダで捨てるため浮かびにくい手です。
秒読みの中で発見できた藤井五段のセンスが光ります。

第8図以下
△2六角成 ▲3二桂成 △4三飛▲7四歩
△同 玉 ▲6五銀 △8三玉 ▲8五銀
△4五角(第9図)


△2六角成・△4三飛と後手は我慢して好機を待ちます。

先手は2枚の銀を押し上げていき、着実に寄せの形を築いていきます。

△4五角と遊んでいた角を活用し、先手玉にも圧力をかけて逆転を図ります。

第9図以下
▲7四歩 △8一桂 ▲6四銀 △8二銀
▲8四金 △7二玉▲7三歩成 △同 桂
▲7四銀(第10図)


▲7四歩は銀が出られるところなので変わった寄せですが、△8一桂や△8二銀と使わせて堅実に勝とうとしています。

第10図以下
△8五桂 ▲同 金 △7六歩▲5六桂
△3六馬 ▲3七金(投了図)

まで117手で先手の勝ち

△8五桂はハッとする手ですが、▲8五同金と自然に応じるのが冷静。

△7六歩には▲5六桂と角のラインを止めて確実に逆転の芽をつんでいきます。

△3六馬に▲3七金が決め手で、この手をみた広瀬八段が投了されました。
投了図以下
△3七同馬▲4五飛△同飛
は▲6三銀成から即詰みがあり、収集困難となっています。

史上最年少の棋戦優勝を、妙手”▲4四桂”で飾った歴史的一局となりました。

将棋盤

 0

タイトルとURLをコピーしました