【名局鑑賞】第11回朝日杯将棋オープン戦本戦八代ー羽生戦

今回は、2018年1月13日に行われた第11回朝日杯将棋オープン戦本戦、八代弥六段対羽生善治竜王の一戦をお送りします(タイトル・段位はいずれも当時)。
朝日杯優勝経験者同士の死闘をお楽しみください。
今回も、棋譜利用の許可をいただきまして使用しております。主催者様に感謝申し上げます。

主催:朝日新聞社、日本将棋連盟

先手:八代 弥 六段
後手:羽生善治 竜王


初手から以下
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △4四歩
▲4八銀 △4二飛 ▲6八玉 △9四歩
▲9六歩 △7二銀 ▲7八玉 △3二銀
▲5六歩 △4三銀 ▲5八金右


戦型は八代先生の居飛車に対して羽生先生が四間飛車を採用。

羽生先生は居飛車の採用率が高いもののオールラウンダー。
一定の期間に同じ戦法を指される傾向があり、本局の前の対局でも四間飛車を採用されていました。

上図以下
△6四歩 ▲2五歩 △3三角 ▲3六歩
△6二玉 ▲6八銀 △7一玉 ▲5七銀左
△8二玉 ▲6八金直 △1四歩 ▲1六歩
△5四歩 ▲3八飛 △3二飛▲4六歩
△5二金左 ▲3七銀 △1二香


▲5七銀左からの急戦策は懐かしい戦法。
八代先生の師匠である青野照市先生が得意とされている指し方となります。

上図以下
▲9八香 △5一角 ▲4五歩  △3三角
▲2八飛 △4二飛 ▲4六銀右 △4一飛
▲3五歩 △4五歩 ▲3三角成 △同 桂
▲3七銀


▲9八香は趣向の手。
代えて▲2六銀からシンプルに攻めていくのも有力でした。

△5一角には▲4五歩と指したくなるところで、ここから戦いが始まりました。

△4一飛は先手が何もしてこなければ本譜のように▲3七銀と引いたところで△2一飛と形よく飛車先を受けられるのですが、▲3五歩がやっかいな一手でした。

上図以下
△2一飛 ▲3四歩 △同 銀▲3二角
△5一飛 ▲5四角成 △4三金 ▲6四馬
△4四角


後手は当初の予定通り△2一飛とまわったのですが、▲3四歩~▲3二角で馬作りが確定して先手有利に。

代えて
△4四角▲6六角△同角▲同歩
△5五歩▲同歩△3五歩▲2四歩
△3四角
が難解ながら有力でした。

上図以下
▲6六銀 △5六飛 ▲5五歩 △3八歩
▲6五馬 △5八飛成 ▲同 金 △3九歩成


▲6六銀に代えて▲6六歩では、△5五歩からサバキの調子を与えてしまうのが面白くないところ。

本譜は▲5五歩と飛車の退路をなくし、後手が暴れてくるのを面倒見る方針となります。

上図以下
▲6八金 △6四歩 ▲同 馬 △2九と
▲同 飛 △3八金 ▲2七飛 △3五桂
▲3六銀 △2七桂成 ▲同 銀 △3七金
▲4一飛


▲6八金は自玉を引き締める本手ですが、単純に▲4一飛とするのも有力でした。

△6四歩と馬の利きをずらすのが参考になるテクニックで、うまく攻めをつないで飛車を取って先手に楽をさせません。

上図以下
△8四飛 ▲6五馬 △3五角▲4六歩
△2七金 ▲6四桂 △4六角▲5七銀
△1九角成 ▲3五歩


上図では△6三歩も有力で、馬が逃げてくれれば大きな利かしですし、▲7四桂は有力ながら寄せるには条件が整っていないのでやってこいとばかりに打つのはありました。

▲4六歩は「大駒は近づけて受けよ」の格言に沿った手。
私の持論ですが、棋譜並べの中盤は歩の動きに着目することが重要だと思っています。

下図の▲3五歩も金銀の連結を乱す参考になる手ですね。

上図以下
△5六歩 ▲7二桂成 △同 金▲5六馬
△6四桂 ▲6六馬 △5六歩 ▲8四馬
△同 歩 ▲6一飛打 △9二銀


△5六歩では△6四飛と飛車を切ってから歩を打つのが優ったようです。
先手も▲7二桂成はいつでもできるとみて保留していたわけですから、盲点になっていたかもしれません。

▲6一飛打と二枚飛車に襲いこまれて△9二銀と打たされては辛い格好なのですが、勝負としてはまだ難しいというのが将棋の大変なところ。

下図では幻の妙手がありました。

上図以下
▲6四飛成 △5七歩成▲同 金 △6二香
▲8四龍 △8三銀打 ▲8六龍 △5五馬


上図では▲8三銀と放り込むのが有力でした。
△同銀には▲8一飛成が刺さりますし、△同金ならそこで▲6四飛成とすれば次に▲6二竜や▲7五桂が厳しいという算段です。

本譜は△6二香~△8三銀打と自陣に駒を増やしていき、後手も粘りがいのある展開になってきました。

上図以下
▲9五歩 △5九角 ▲8五龍 △9九馬
▲9四歩 △9八馬 ▲9六龍 △9五香
▲8五龍 △8八歩 ▲7五桂


▲9五歩では▲6一銀等と指したいところ。

△5九角~△9九馬の角と馬のコンビネーションがうまく決まり、ついに後手が逆転。
しかし、本局はそう簡単には終わりませんでした。

上図以下
△8九歩成 ▲3四歩 △8四桂▲6九玉
△4八角成 ▲6一銀 △7一金 ▲5二銀成
△6七香不成 ▲同 金 △6一歩 ▲4三飛成
△4七馬


△8九歩成では△8九馬~△7七角成と指したいところで、これなら△7八馬引以下の詰めろになっていました。
本譜は攻める猶予を与えてしまい、再び形勢の針が先手に触れてしまいました。

▲5二銀成ではいきなり▲4三飛成も有力で、▲9三銀と放り込む手をみて後手は受けに困っていました。

上図以下
▲5八銀 △7四馬 ▲8六龍 △9七馬
▲6八玉 △3七金 ▲5七玉 △8六馬
▲同 歩 △4八飛


▲5八銀では▲5八歩と節約して受けておき、前述した▲9三銀を楽しみに残しておきたいところ。

息を吹き返した後手が再び攻勢に転じます。

上図以下
▲5六香 △6五馬 ▲6三龍 △4六飛成
▲6八玉 △7六桂 ▲7七玉 △7五馬
▲6六金打 △7四馬 ▲3三龍 △4八龍
▲7五歩 △5八龍 ▲7四歩 △同 銀
▲7六金寄


▲5六香は馬の利きを遮断して自然にみえるのですが、これが敗着となってしまいました。
代えて▲4九香と際どく受けるのが有力で、これならまだ先手が残していたようです。

本譜は△6五馬からの攻めが絶品。
▲7五歩の馬取りを無視して△5八龍と踏み込み、一気にギアを上げていきました。

上図以下
△5七銀 ▲6八歩 △6五桂▲同 金
△同 銀 ▲4四角 △7六金

まで164手で後手の勝ち

△5七銀が上部脱出を阻止した勝着。

▲6八歩と竜の横利きを止めて△8八竜の一手詰めこそ消しましたが、△6五桂から上から崩していくのが厳しく後手の羽生先生の勝ちとなりました。

二転三転の見ごたえのある熱戦でした。

将棋盤

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