【名局鑑賞】第15回朝日杯将棋オープン戦一次予選青嶋ー高野戦

中飛車その他

今回は、2021年9月7日に行われた第15回朝日杯将棋オープン戦一次予選、青嶋未来 六段対高野智史 五段をご紹介します。
秘術を尽くした応酬を存分にお楽しみください。

今回も掲載にあたりまして主催者様に許可をいただきました。
寛大なお心に感謝申し上げます。

主催:朝日新聞社、日本将棋連盟

先手:青嶋未来 六段
後手:高野智史 五段
(段位はいずれも当時)

初手から以下
▲7六歩 △8四歩 ▲5六歩 △6二銀
▲5八飛 △4二玉 ▲4八玉 △1四歩
▲1六歩 △8五歩▲7七角 △5四歩

先手の青嶋六段は居飛車振り飛車ともに指せるオールラウンダー。
チェスでも国内トッププレイヤーとして活躍されています。

後手の高野五段はじっくりとした将棋を得意とする正統派居飛車党。
新人王戦優勝の経歴を持つ実力者です。

戦型は青嶋六段の先手中飛車に対し、高野五段が△5四歩と位取りを阻止。
先手は早くも大きな分岐点を迎えました。

上図以下
▲5五歩 △同 歩 ▲同 飛 △3四歩
▲5九飛 △7七角成 ▲同 桂 △4五角
▲7八銀 △2七角成

▲5五歩では▲3八玉~▲6八銀と穏やかに指すのも有力で、これも一局。

後手も一歩交換は甘んじて受けておいて進めるのも考えられましたが、角交換から△4五角と強く反発していきました。
高野五段の棋風とは違う積極策ですが、用意の作戦だったと思われます。  

上図以下
▲5四歩 △5二歩 ▲6五桂 △5一金右
▲7五角 △6四歩 ▲同 角 △3二玉
▲5三歩成 △同 歩 ▲同桂成

▲5四歩は5筋を攻めつつ馬の可動域を狭めた手。

△5一金右は受けの形で、将来5筋に殺到された際に▲5三桂不成が両取りにならないようにしています。

△6四歩は「大駒は近づけて受けよ」の格言に沿った手。
具体的には、△6二飛とまわれた時に角にあたっているのが大きいです。

上図以下
△5二歩 ▲6二成桂 △同 飛 ▲5五角
△2二銀 ▲5四歩 △3三銀▲3八銀
△4五馬 ▲3九玉

△5二歩では△7二馬と指された実戦もありましたが、▲6二成桂に△同飛と取れなくなるため本譜が自然なところ。

▲5四歩は馬で取れますがこれは毒まんじゅうで、△5四同馬は▲2二角成で王手馬取りがかかり技あり。
△3三銀と壁銀を解消するのが妥当なところで、ここまで互角の形勢が続いています。

上図以下
△1五歩 ▲4六銀 △2七桂 ▲同 銀
△同 馬 ▲3八金 △2六馬▲2七歩
△2五馬 ▲1五歩


後手は1筋の突きあいを生かして△1五歩と局面を動かしにいきました。
▲1五同歩では△1八歩と打たれて困りますので、▲4六銀と馬に働きかけました。

△2七桂で△5四馬は▲3三角成がありますし、△5五馬は▲同飛で先手好調です。
ただし、△6七角成は考えられるところで、馬と銀の交換になっても飛車が成れるのと先手の角が捕まりそうなのでいい勝負でした。

本譜は銀桂交換ながらも▲1五歩に対して後手から適当な反撃がなくなっており、先手が少しですがリードしました。

上図以下
△4四銀 ▲7七角 △4二金右 ▲3六桂
△3三銀 ▲5五飛 △2四歩▲8五飛


△4四銀は角に当てつつ将来▲4五桂と狙われる筋を緩和した手。

しかし、今度は▲3六桂が好手で、銀を引かせて▲5五飛と飛車を浮くのが絶好となりました。

▲8五飛と大転回し、△8二歩と受けてくれたら後手は歩切れになるため1筋の攻めが受けにくくなるという算段です。

上図以下
△6一飛 ▲1七桂 △1六馬 ▲8二飛成
△3五歩 ▲同 銀 △6五飛 ▲2六銀


△6一飛は意表の受け。
持ち歩は温存しておきたいという意思が伝わってきます。

▲1七桂は鋭い狙いを秘めた手で、△1六馬に代えて△1五馬なら▲2五桂で後手はしびれていました。

△6五飛は先手の態度を聞いた手で、▲2四銀か▲2六銀、どちらも有力なばかりに考えてしまうところでした。

上図以下
△3四馬▲8一龍 △1六歩 ▲9一龍
△1七歩成 ▲同 香 △2五歩 ▲同 銀
△同 飛 ▲2六香


▲9一龍では▲4六桂も有力。
馬のポジションが変われば先手陣への響きも変わってきます。

本譜は△2五歩で銀がつかまってしまいましたが、▲2六香に期待した手となります。

上図以下
△2六同飛▲同 歩 △3五桂 ▲2四桂打
△2三玉 ▲1四歩 △1六香 ▲同 香
△同 馬 ▲1八香 △2六馬▲3二桂成
△同 玉 ▲1三歩成 △4四歩


ばっさり△2六同飛から△3五桂が急所の攻め。
先手も▲2四桂打から反撃しますが、△2三玉と上がった形は容易につかまりません。
先手が築いていたリードはすでになくなっています。

しかし、△2六馬では△1七香としつこく受けるところだったかもしれません。
▲3二桂成と桂馬を成り捨ててから▲1三歩成と端を破られてしまい、△4四歩と逃げるよりなくなりました。

上図以下
▲6三飛 △1三桂 ▲同香成 △同 香
▲3四桂 △2三玉▲4一龍 △1四玉
▲2一龍 △2二香


▲6三飛では▲4四同桂も有力。
△4三玉なら▲3二桂成と更に成り捨てるのが絶好でした。

本譜も着実な攻めですが、△2三玉~△1四玉で後手もがんばりがいのある局面になっています。

上図以下
▲2二同桂成 △4六桂 ▲2三成桂 △3八桂成
▲同 玉 △2七桂成▲4九玉 △5七銀


▲2二同桂成では▲4二桂成として次に▲3三竜をみるのも有力でした。
△4六桂が急所の攻めで、形勢も盛り上げてきています。

ですが、△5七銀が危険な一手。
寄せとしては最善なのですが、△2二歩と手を戻さなければならなかったのです。

上図以下
▲1九香 △1八歩 ▲1三成桂 △1五玉
▲1八香 △同成桂 ▲5八金 △同銀不成
▲同 玉 △5六香 ▲5七香


▲1九香では▲1七香で実は後手玉が詰み筋に入っていました。
△1七同成桂に
▲2四成桂△1五玉▲2五金△1六玉
▲2六金△同玉▲3三成桂△2五合
▲4四角
が一例で、△3五合は▲同角と取れる手が生じています。

本譜でも先手が悪いわけではないのですが、後手から思わぬ勝負手が飛んできました。

上図以下
△4九銀 ▲同 玉 △2二金 ▲同成桂
△5七香成 ▲1二龍 △1四歩▲2四銀
△2五玉 ▲6五飛成 △4五香 ▲4八金


△4九銀は▲4九同玉と取った手が詰めろになっているため手になっていないかと思いきや、△2二金が渾身の勝負手順でした。
強引にでも竜のラインが消えれば△5七香成が通るというもくろみです。

▲2二同成桂では▲4四角ならまだ先手が優勢でしたが、角を取る手だけでなく竜を取る手も読まなければならず、大変な読みを入れなければならず指しきれないところに感じました。

本譜は勝負手が通った格好となり、形勢逆転。
しかし、将棋は最後まで分かりません。

上図以下
△5六香 ▲同 龍 △同成香 ▲3五金
△1六玉▲1四龍 △1五金 ▲同 銀
△2七馬 ▲3八金打 △同 馬 ▲同 金
△4七香不成 ▲4八歩

まで149手で先手の勝ち

△5六香が敗着。
代えて△3七馬なら後手が有望でした。

本譜は▲5六竜と食いちぎる手が好手で、形勢再逆転。
続く▲3五金もぴったりな寄せで、青嶋六段の勝ちとなりました。

結果は伴いませんでしたが、高野五段の勝負手連発が印象的な一局。
二転三転の面白い将棋でした。

将棋盤

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