【名局鑑賞】戸辺攻めの▲3四角!第69期順位戦B級2組戸辺ー先崎戦

今回は、平成22年12月10日に行われた第69期順位戦B級2組、戸辺誠六段対先崎学八段の一戦をお送りします。(段位はいずれも当時)
迫力ある攻めが炸裂した熱戦をお楽しみください。

今回も棋譜利用の許可をくださった主催者様に感謝いたします。

主催:毎日新聞社・朝日新聞・日本将棋連盟

先手:戸辺誠六段
後手:先崎学八段

初手から以下
▲7六歩 △3四歩▲7五歩 △4二玉
▲6六歩 △6二銀▲7八飛 △8四歩
▲4八玉 △3二玉▲3八玉 △8五歩
▲7六飛 △3三角▲2八玉 △2二玉
▲5八金左 △8四飛▲6八銀 △1二香
▲1八香 △1一玉▲1九玉 △2二銀
▲2八銀 △3一金▲9六歩 △5一金
▲3九金 △4一金右▲4八金寄


先手番となった戸辺先生は▲7五歩から石田流三間飛車を採用。
戸辺先生は石田流と中飛車を得意とする棋士として知られており、過激な攻めを繰り出すことから「戸辺攻め」とおそれられています。

対して後手の先崎先生は居飛車穴熊を採用。
先崎先生は近年「うつ病九段」等の著書でも知られる棋士です。先手としては美濃囲いからスピーディーに仕掛けていくのも有力でしたが、本局は振り飛車側も穴熊へ囲ってじっくりした駒組みになりました。

上図以下
△5四歩▲9七角 △4二角 ▲6七銀
△5五歩▲7七桂 △5三銀 ▲5八銀
△3二金右 ▲4六歩 △1四歩▲1六歩
△2四歩▲4七銀 △9四歩 ▲4五歩
△2三銀


△5四歩では△5一銀と一目散に右銀を囲いにくっつけるのも有力でした。

△5五歩は飛車の横利きを通しつつ▲5六銀を嫌った手。
先手は無理に仕掛けようとせず、▲5八銀~▲4七銀と自玉へ左銀を寄せていき戦機を待ちます。

上図以下
▲7四歩 △同 歩 ▲6五歩 △2二金上
▲5六歩 △9五歩 ▲5五歩 △9六歩
▲7九角 △7五歩 ▲同 飛 △7三歩


▲7四歩からついに開戦。

▲5六歩に△同歩▲同飛と応じては先手が指しやすくなってしまいますので、△9五歩から反発していきます。

△7五歩~△7三歩は歩をバックさせる手筋。飛車の横利きを通して互角の進行です。

上図以下
▲7六飛 △3三角▲5七角 △7四飛
▲同 飛 △同 歩▲7一飛 △5六歩

▲8四角 △7九飛▲8一飛成 △7七飛成
▲9一龍

△5六歩には▲同銀と応じてあえて△7六飛を許すのも有力。
先手は飛車打ちを先着しているため、これでも十分戦えました。

とはいえ本譜も5六の拠点が残りますが激戦です。

上図以下
△6七龍▲9六龍 △8六歩 ▲同 龍
△2五歩▲9二香成 △2四角 ▲5六銀
△6九龍 ▲4九香


△6七龍はプロらしい渋い一着。

▲9六龍も△5五角を緩和しつつ自陣に利かした腰の重い一手ですが、▲6一龍や▲9二龍とあくまで攻めに竜を使うのも考えられました。

△2五歩は次の△2四角と将来△2六歩もみて穴熊崩しとして価値が高い手となります。

▲4九香は囲いを崩されないよう補強した本手といえます。

上図以下
△6四歩▲4七銀 △6八角成 ▲9六龍
△4二銀▲5四歩 △5九龍▲6四歩
△5四龍▲6六龍 △5九龍▲6三歩成
△3三銀▲5三と △1五歩


△6四歩は相手をしてもらえれば調子よく駒を使えるのですが、じっと▲4七銀と引く手が好手。
△6五歩には▲5六竜があって歩を取り込みにくいようでは変調でした。

本譜は▲6三歩成と逆用した先手がペースをつかむ展開。
後手は△1五歩と端を絡めて局面の複雑化を図ります。

上図以下
▲6八龍 △同 龍▲1五歩 △1六歩
▲1四桂 △同 銀▲同 歩 △2六歩
▲同 歩 △3五桂▲3六銀 △1四香
▲3五銀 △同 歩▲1二歩 △同 玉
▲1五歩 △2五歩


▲6八龍は△3五角成を嫌った手ですがどうだったか。
▲1五同歩と受けてたったほうがよかったかもしれません。

△1六歩では代えて△2六歩とし、▲同歩には△2五歩と継ぎ歩攻めをみるのも有力でした。
本譜は▲1四桂や△3五桂と両者桂馬を軸として攻める展開に。

△1四香と桂馬をはらった手に対して先手も▲3五銀とくいちぎります。
難解な形勢かと思われましたが、戸辺先生の次の一手から大きく流れが動きます。

上図以下
▲3四角 △同 銀▲2四桂 △2三玉
▲3二桂成 △同 金 ▲5一角成 △3三角
▲4一馬 △3一飛▲同 馬 △同 金
▲5四飛


▲3四角がこれぞ戸辺攻めといえる絶妙な一手。
角損してでも▲2四桂から玉を露出させれば指せるという明るい大局観が光ります。

ただし、▲5四飛はどうだったか。
代えて▲2七銀打と指すのが優りました。

上図以下
△6五角▲1二銀 △同 玉▲3四飛
△2二金▲3一銀 △2三金 ▲3三飛成
△同 金▲1四歩


△6五角は逸機。
代えて△2六歩として次に△2七桂を狙えば勝負はどうなっていたか分かりませんでした。

本譜は▲1二銀の銀捨てが好手で、▲3四飛と後手玉に迫りながら飛車取りを回避したのが好便でした。

上図以下
△1一銀▲1三香 △同 桂▲同歩成
△同 玉▲1四歩 △2三玉▲4二銀不成
△3四金▲4一角 △2四玉▲2三金

まで151手にて先手勝ち

△1一銀は必至の防戦ですが、▲1三香から上から押しつぶすように攻めるのが厳しい。

▲2三金をみて後手が投了。
△1五玉に▲2七桂と打てるのが大きく、即詰みが生じています。

▲3四角の角捨てが印象的な一局で、戸辺先生の持ち味が存分に出た名局に思います。

将棋盤

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