今回は、2015年12月7日に行われた第9回朝日杯将棋オープン戦二次予選・行方ー藤井(猛)戦をお送りします。
序盤から終盤まで見どころ満点。
藤井九段の四間飛車、鰻屋のうなぎをご堪能ください。
掲載の許可をいただきました主催者様に感謝いたします。
主催:朝日新聞社、日本将棋連盟
先手:行方尚史 八段
後手:藤井猛 九段
(段位は対局当時)
初手から以下
▲2六歩 △3四歩▲7六歩 △4四歩
▲4八銀 △4二飛▲6八玉 △9四歩
▲7八玉 △7二銀▲5六歩 △3三角
▲5八金右 △6四歩 ▲2五歩 △5二金左
▲5七銀 △3二銀▲3六歩 △6二玉(第1図)
戦型は居飛車対四間飛車。
四間飛車は藤井九段の十八番で、本局のような居玉で駒組みを進める「藤井システム」は一世を風靡(ふうび)しました。
▲3六歩は急戦をみせた手で、この手をみて△6二玉と動くのが1つの呼吸となります。
第1図以下
▲3五歩 △同 歩 ▲4六銀 △3六歩
▲2六飛 △4五歩 ▲5五銀 △5四歩
▲6四銀(第2図)
▲3五歩では▲5五角も有力ですが、△6三銀との交換になって損得は微妙なところ。
△3六歩では単に△4五歩も有力。
▲3三角成に△同桂と△同銀のどちらも考えられ、いい勝負です。
▲5五銀では▲3五銀も考えられますが、角交換からのサバキをみせつつ△7一玉と引いておけばこれも一局です。
第2図以下
△7一玉▲2四歩 △同 歩 ▲3三角成
△同 銀 ▲3四歩 △2二銀▲2四飛(第3図)
△7一玉は美濃囲いにおさまる本手。
代えて△4六歩からサバく手も指されているところでした。
本譜を選べば、第3図までの攻めは覚悟しなければなりません。
第3図以下
△8二玉▲3三歩成 △同 桂 ▲3四歩
△1五角▲3三歩成 △2四角 ▲4二と
△同 角▲7五銀(第4図)
△8二玉はこの対局で初めて指された手。新手です。
代えて△6三歩が実戦例としてありましたが、▲5三角と角をねじ込む手があり後手大変です。
▲3四歩で桂馬が助からない格好になりましたが、△1五角がいい切り返し。
勢い駒の取り合いへと発展しました。
第4図以下
△6三歩▲2一飛 △3三角 ▲6六角
△2四飛(第5図)
△6三歩は▲6四桂を消した受けの好手。
▲2一飛と先攻されてしまいますが、△3三角の活用がぴったりとなります。
▲6六角には△同角~△2八飛なら普通の対応でしたが、実戦は△2四飛とひねった指しかたで応じました。
サバキの調子を追求した手ですが、ここでは先手に好機が訪れていました。
第5図以下
▲3三角成 △同 銀▲2四飛成 △同 銀
▲2一飛 △2八飛▲4四角 △4六歩
▲同 歩 △4七歩(第6図)
第5図では▲1六桂という異筋の好手がありました。
飛車の位置がずれれば▲3三角成が厳しくなるという仕組みです。
しかし、本譜は単に角を成ったため、駒がサバけて後手も悪くない展開に。
▲2一飛では▲3四角とし、次に角切りからガリガリ削っていくのも有力。
▲4四角はポジションとしてはいいのですがすぐ何かを狙えるわけではなく、第6図まで進むと次の△4八歩成が単純ながらうるさい攻め。
こうなれば後手に分のある戦いとなっています。
第6図以下
▲1一角成 △4八歩成 ▲6八金寄 △2九飛成
▲8六香 △4一歩(第7図)
先手はこのままだと戦力不足なので、▲1一角成と香車を補充して▲8六香と据えていきます。
△4一歩は「大駒は近づけて受けよ」の格言に沿った手で、▲同竜には△5一金引を用意しています。
こうして受けておくことにより、▲8四桂といった強手の備えにもなっています。
第7図以下
▲4四馬 △5九と ▲同 金 △同 龍
▲4一飛成 △5一金引(第8図)
第7図で紛れをもとめるなら、▲3九歩はあったかもしれません。
△同竜なら▲6六馬や▲2四飛成で簡単ではありません。
ただし、後手も取る一手ではなく、△3七歩成と種を増やすのも有力で後手優勢に変わりはありません。
本譜▲4四馬は好位置に馬をもどした手ですが、▲2四飛成に△3二桂の両取りの筋が生じて先手は銀を取りにくくなりました。
第8図以下
▲5三桂 △5八金 ▲同 金 △同 龍
▲6八金 △6九角 ▲7七玉 △6五桂
▲6六玉(第9図)
竜を逃げずに▲5三桂としたのは行方八段の勝負手。
しかし、相手をせず△5八金としたのが鋭い踏み込み。
先手玉を上部へ引っ張り出して第9図。
ここで藤井九段から絶妙の一手が指されました。
第9図以下
△3五銀(第10図)
△3五銀が遊んでいた銀を活用した好手。
▲3五同馬は△5五金で詰みが生じるため、この銀は取ることができません。
第10図以下
▲5四馬 △5七桂成▲同 金 △同 龍
▲同 玉 △4一金 ▲6一桂成 △5九飛
▲6六玉 △4七角成▲7八金 △5六飛成
▲7七玉 △5四龍 ▲6二成桂(第11図)
▲5四馬は馬取りを回避しつつ上部開拓を図った手。
しかし、△5七桂成と取られそうだった桂馬を成るのがこれまた絶好で、飛車角の大駒のコンビネーションで先手玉を追い詰めていきます。
第11図以下
△4四角 ▲5五歩 △同 龍▲7二成桂
△同 玉 ▲6六銀 △5九龍▲4五歩
△6六角(結果図)
まで108手で後手の勝ち
△4四角の両取りに対して▲5五歩の歩のタタキは手筋。
しかし、△5五同竜で大勢に影響はありません。
▲4五歩は首を差し出した手で、△6六角で詰み筋に入り藤井九段の勝ちとなりました。
投了図以下
▲6六同歩には
△6七金▲8八玉△7八金
▲6六同玉には
△5六金▲7七金△6七金
でいずれも詰みとなっています。
幻の▲1六桂を指されていれば先手に分がありましたが、それを除けば振り飛車会心の一局。
特に△3五銀が印象的で、藤井九段の寄せが冴えわたりました。
0手